キノコがくすりになるワケ 日本人はキノコ好きといわれています。縄文時代の遺跡からはキノコ形土器が出土し、万葉集や古今集には「キノコ狩り」の 歌がいくつかあります。平安時代の貴族が愛でたのはマツタケで、『今昔物語』に出てくるのはヒラタケですが、 日本人のマツタケ「信仰」は1000年以上の歴史があるようです。 マツタケは、今なお人工栽培ができず、庶民にとっては「高嶺の花」です。逆に、中国ではかつて高級品だったキヌガサタケは 栽培に成功し、家庭の食卓にものぼる様になりました。 しかし、栽培やバイオ(遺伝子操作)技術の研究が進んでも、冬虫夏草をはじめ多くはまだ天然のキノコ(かさと茎の部分 =子実体という)まで、できているわけでありません。人工のものの多くは子実体になる前の菌糸(胞子から芽を出し、 糸状になっているキノコの細胞)を分離し、それを工場のタンクで大量に培養しているだけです。 ですから天然のキノコとは成分やその割合などは異なり、「くすり」としての働きも違います。 キノコが漢方薬や抗がん薬として認められているワケは、その薬理効果があるからです。一番重要な働きは免疫賦活作用です。 免疫とは、自分自身のものか(自己)、自分以外のものか(非自己=異物)を見わけ、からだをいつも健康な状態にしようとしている 自己防衛力と自然治癒力です。つまり、外から入ってくる細菌やウイルスなどの「異物」との戦いと、がん細胞などからだの内部で 生じる「異物」を見つけ出し、戦い、からだを常に一定の状態にたもとうとするホメオスタシス(恒常性)の維持、これこそが健康の みなもとです。 次が抗酸化作用です。これは、体内で作られた活性酸素をすみやかに消しさり、細胞がさびることを防ぐ働きです。 だが過労や老化などによって免疫力が落ちると、この働きは衰え、活性酸素がたまり、過酸化脂質ができ、まさに細胞をさびさせて、 がんをはじめ高血圧、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)などの生活習慣病の原因となります。そのため、キノコをふだんから 食べておくと、健康で長生きができるのです。 3つ目が抗腫瘍作用です。いわゆる抗がん作用です。だが、いまでは免疫の研究も進み、キノコの成分、たとえばβ−グルカンや 糖タンパクそれ自体にはがん細胞を殺す働きがないことがわかってきました。従って、キノコの抗がん作用とは、免疫賦活作用に よって活性化されたマクロファージ(食細胞)やキラーT細胞、ナチュラルキラー細胞などの免疫細胞やインターフェロンや TNF−α(腫瘍壊死因子)などのサイトカインががん細胞を攻撃するからです。 このため、キノコのある成分が医薬品として、がん治療に応用されています。こうした薬を生物学的応答調節剤といい、抗がん剤と 併用されています。 このほか、コレステロール、血糖、血圧などを下げる作用や、血液の流れを改善し、血栓(血液やコレステロールなどが血管内に 塊となって血管をつまらせること)ができるのを防ぐ作用なども知られています。もちろん、キノコの違いによって、これらの 働きには違いがありますので、詳しくは医師や薬剤師などの専門家に相談することが必要です。 |